蕎麦の話しをしていると、この様に言う人もいる。
「手打ちは時には不揃いであるものの方が、手打ちらしくて良い。蕎麦一本一本の切り幅もまちまちで、麺帯の伸ばし加減もにもムラがある。そんな方が、人間がやることのようで良いではないか。それに、十割そば製麺機や、手打ち式包丁切りそば製麺器とは違って、ひと目で手打ちと分かるので、手打ちを売り物にも出来る…」。
これが不揃いをよしとする人の理屈である。
しかし、この意見は如何なものか。
小生の打つ趣味の蕎麦でさえ、技をひとつ覚える度に、稚拙なレベルを超えることもあるのである。
ましてや商売人のつくる蕎麦においてや……となる。
つまり、同じものをいくつも作り続けても、その時々で仕上がり具合が違ってしまうことなど許されない、規格の揃っていることが求められる。手打ちとか機械製麺とかに関係なく、これがプロの仕事なのだと思う。
さて、今回の甚兵衛は、出石の中でも三本指に入るプロの店であろうと思う。
玄関をくぐれば、いきなり井戸から水が沸きだしていて、竹が数本活けてあるから縁起良く感じ、蕎麦がハレの食べ物である事を思い出す。
そして皿蕎麦も、まさにお客さんが好む平均の味覚に標準を合わせてあるのだろうと、思うほどこれといった特色のたぐいは一切省いてある。
当たり前に、キチンと切りそろえられた蕎麦、まったく正確に香る汁、薬味に至ってもまさに標準的に新鮮なものを提供されている。
だが、店を出るとき、また通おうとは思えなかった。
出石は、観光客が入りやすく観光客が旨いと思えばいいのだから、この様な全くの平均値はむしろ望まれる姿勢だ。それに内装も良い。それなのに何故か再訪を胸に描けなかった。
旨い蕎麦湯を出してくれて直ぐに、これまた旨いそば茶も出していただいた。
これは嬉しかったのに…複雑な気持ちだ…。
甚兵衛そば
0796-52-2185
〒668-0256 兵庫県豊岡市出石町小人14−16
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