手打ち蕎麦 遠来

1970年代関西フォーク界として有名だったミュージシャン友部正人さんの曲、『遠来』。この方の曲名をそのまま店名にしているお気に入りの手打ち蕎麦屋さんが京都にある。

遠くから来ると書く遠来は、何となく哀愁を感じる言葉であるが、遠くから来ると書く。来る、ならぬ出張族の小生の場合は遠くに行く事が多い。遠くに行けば遠くのことを様々と感じるのだけど、実は自分がいつもいる土地について、その遠くの土地を通して感じたりしていることも多い。これは比較なんて事ではなくって、むしろその場所が礎になっているといった事であり、また、自分の土地が礎になっていたりして増幅したりする感動のようなことであり、いくら遠くでもその感動がない土地もあれば、感動ばかりの土地もある。何にしてもその土地にいる今がどう感じているのかという事こそ大切なんだろう。

この曲をはじめて聴いたときそう感じたのを覚えている。

お店をしていて、お客さんをお迎えするというのは、店の名前どおり遠くから来ていただく、様々なところからその土地の礎をもって来て頂けるというわけだ。そんなお迎えをすると言った気持ちが現れている。これもまったく自分で感じているだけで申し訳ないのだけど、この遠来の店主さんから感じることだ。

冒頭から、僕の主観ばかりだけど、更に続けさせて頂く。
感じているだけではない、ここでは直接的に自分の舌で感じる事も出来る。麺やツユにそんな気持ちもが直接現れている。そんな店なのだ。これも記しておきたい。

さて、この事を語る前に告白しておかなければ行けないことがある。

それは小生が長年の思い込み続けていたとんでも無い誤解で、改めて今この場を借りて懺悔しておこうと思う。
「蕎麦と饂飩を出している店はマズイ」という考え方であった。

つまり、蕎麦は蕎麦だけ、饂飩は饂飩ということで、これ今でも頭をよぎることなんだけど、この思い込みがあったからこそ入らなかったとう店が本当に多くて、これまた罪なのは人様にこれを定説のごとく、また蕎麦通の常識みたいに胸を張って公言していたところなのです。
「蕎麦に饂飩を一緒に出してる店なんてダメだよ」ってことだった。

「手打ち蕎麦」などと店の看板に書いてあって、中にはいると「そば・うどん」などと書いてある店なんて間違いなく最悪だ、そう思いこんでいたのである。それに、たまたま同伴者の都合で入った店があったとしても、そんな定説を否定してくれるようなお店がなかった。
残念ながら全て小生の定説「蕎麦と饂飩を一緒に出している店はダメ」が的中し続けてきたというわけです。

そして、この「遠来」は、手打ち蕎麦の看板。
中に入ってメニューを見たら「うどん」の文字。だから、いつものように、心の中でつぶやいていたのです。

ところが僕の目からウロコが剥がされるのには、そう時間がかからなかった。

あれは、2年ほど前、京都市内から実相院さんへお詣りした帰り道、反対車線に目に付いたのが「手打ち蕎麦」の暖簾だった。そこで、わざわざUターン。店の横には2台分のガレージもあるから、停めやすかった。

店内へ入るとすぐ目に付いたのが、左側の作業工房。
ああ、本当に打ってるんだ、その程度の理解で注文をするが、メニューには「うどん」の文字がありました。
なんだ、それじゃたいしたこと無いんだろうなあ、そう思って蕎麦を注文したのでした。

この店ではじめて口にしたのは「十割蕎麦」。
目の前に運ばれてきたとき、あれ?とおもった。

まず、蕎麦の香りが奥深くそのまま口の中で味わうと、蕎麦の味がしっかりとひろがる。

これが美味かったので続いて、「かけそば」も頼んでみた。
すると、ツユがしっかりと出来ていて、すっかり気に入って虜になった。
そしてその日は、それで帰ったのです。

しかし、「うどん」が気になっていた。
どうせ…、と思いつつも再訪、十割蕎麦をと言いかけて饂飩にしたのです。

その饂飩は、蕎麦と同じように一回一回茹でられるのでした。
待つこと、10分ほど、氷水で素早く冷やしておられます。

目の前にお出し頂いた饂飩は、光っていた。
そして味わった饂飩は蕎麦よりも美味かった、たまらなかった。そして、今までのことを悔やんだ。

その饂飩が、このザル饂飩だ。


これが初めての印象で。
以降、この店が大好きになってしまい、この店の前を通る度に立ち寄る。
まだ出来てからは3年も経っていないこのお店なのに、もうずいぶん昔から通っているような錯覚すら覚える。そして、いつのまにやら友部さんのファンにもなっている。
京都市内からだと少々は、遠くから来た感じになるお店だからほっこりとする、だからいつも心身ともに満足できるのである。

手打ち蕎麦 遠来
京都市左京区岩倉花園町355-3 プラザ岩倉1F
075-702-7074
木休
11:30

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遠来 (そば / 岩倉、八幡前)
★★★★ 4.0

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